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2018年12月 7日 (金)

梅爺創作落語『極楽詣で』(9)

(八五郎)『あっしを好いていてくれる娘が近所にいるって、一体誰のことですかい』
(おっかさん)『長屋の太郎兵衛さんのところの、お雪さんだよ』
(八五郎)『お雪坊なら、幼馴染だが、おっかさんも知っての通り、お雪坊は今や長屋小町といわれる別嬪(べっぴん)で、気立てもやさしい娘(こ)ですから、お雪坊さえ望めば、日本橋の大店(おおだな)の若旦那のところでも、どこでも輿(こし)入れできますよ。あっしのような貧乏大工には出る幕がございませんよ。それに近頃じゃお雪坊はあっしをみかけると、ぷいと横を向いてわざと知らんぷりをして通るんですよ』
(おっかさん)『お前も馬鹿だね。それは好いているからこその素振りじゃないか。女は好いた人と一緒になるのが、何より幸せなんだよ。この世に戻ったら、しっかり話をつけるんだよ』
(八五郎)『好いているからこそ知らんぷりをするなんて、どうも女心は難しいもんですな。でも、8年ぶりにおっかさんのお説教がきけて、極楽に来た甲斐がありました。戻ったら太郎兵衛さんに、お雪坊を嫁にもらえるかどうか確かめてみましょう』
(おっかさん)『今度お前に会えて話が出来るのは、お前が死んでこちらに来た時だから、だいぶ先の話になるね。それまでは盆の度に里帰りして、蔭ながらお前を見守っていますよ。この世では達者が一番だからね』
(八五郎)『へぃ、かしこまりました。それでは、おとっつぁん、おっかさん名残惜しいですが、この辺でお暇いたします。あれっ、そう礼を言った途端に、二人の姿はもう見えなくなりましたな』

(又兵衛)『お二人ともにこにこしていましたから、八五郎さんのお気持ちは十分伝わりましたよ。さて外(ほか)に極楽について、見聞きされたいことはございますか』
(八五郎)『見渡すところ一面に色とりどりの花々が咲き乱れていて、えも言われぬかぐわしい香りがただよっていますな。それに暑からず、寒からずで実に居心地のよいところですな。極楽には季節の移り変わりなんてものはないのかい』
(又兵衛)『季節ばかりか、夜昼の区別もありません』
(八五郎)『どこからか、妙なる楽の音(ね)が聞こえてきますが、あれは誰が奏でているんですかな』
(又兵衛)『空中に浮かんだ天女たちが楽器を奏でているんですよ。もっとも八五郎さんにはその姿は見えませんがね』
(八五郎)『四六時中楽器を奏でているんじゃ、天女さんたちも時には疲れて休みたくなるんじゃないのかい』
(又兵衛)『極楽では、疲れる、飽きるなどということはありません。霊者は食べたり飲んだりはしませんが、いつも満腹です。夜はありませんから眠ることもありません。それに何よりも心を煩(わずら)うこともありませんから、いつも心穏やかです』
(八五郎)『何から何まで結構な聞こえるけれども、正直なところ、あっしは三日も極楽に居たら、飽き飽きして逃げ出したくなりそうな気がしますな。どうも罰当たりなことをいうようですが』
(又兵衛)『残念ながら極楽に、この世の考え方を持ち込むことはできません。飽き飽きして逃げ出したくなるというのは、この世の人の考え方、感じ方です。八五郎さんも霊者として極楽の住人になれば、変わりますよ』

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