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2011年5月 2日 (月)

福岡伸一著『動的平衡』(6)

梅爺は、文学的表現としては、『奇跡的』という言葉をあまり深く考えずに使いますが、自然の摂理の中に、『奇跡』は存在しないのではないかと疑っています。それでも、以下のようなことは、確かに『奇跡』に近いと認めざるをえません。人間は、自分の理解能力を超えた事象には、惧れおののき、当惑します。つまり、悲しいことに、自分の能力を超えた理解はできませんので、理解できないことは『奇跡』や『神の御業(みわざ)』ではないかと推測します。しかし梅爺が『奇跡』に近いと感じたから、客観的にも『奇跡』なのだと、他人に同意を求めるつもりはありません。

(1)『無』に見える状態から宇宙が膨張を開始した。
(2)太陽系の中に、地球という特殊な環境の惑星が出現した。
(3)地球の中に、『生命』が誕生した。
(4)生命体の進化の中で、『人間』が誕生した。

これらは、人間の感覚では、『稀有な偶然』で起きたように見えますが、『動的平衡』で変遷する自然の摂理の中では、『必然』の出来事であったのかもしれません。

『生物分子学』は、『生命』とは何かへ科学的に迫る学問で、ここ数十年の間に、多くのことが解明され知識が増えましたが、『生命』が私達へ突きつけている謎の大半は未だ分かっていません。梅爺の能力では、学者が既に突き止めた内容も、正しく詳細に理解できませんが、大雑把には、何が分かっていて、何が分かっていないかを、この本を読むことで知ることができます。生物としての人間は、基本的に何も特殊な存在ではないことを知ると同時に、進化で到達したレベルはきわめて特殊であることを知ることができます。この『特殊ではないが、特殊でもある』という人間の本質を知ることは重要なことです。言うまでもなく『特殊である』ことは、進化で獲得した脳の能力に由来しています。

最初単細胞であった人間の卵細胞が、受精後分裂を開始し、やがては60兆個の細胞にまで達すること、60兆個の細胞の中には、各々数百個の『ミトコンドリア(細胞小容体)』が存在し、酸素を摂取してエネルギー源を生成していること、同じく細胞の中には、細胞の活動の『指令書』である、DNA(遺伝子情報を保有)が存在すること、遺伝情報は各人異なっているが、基本要素は共通の3万個程度の遺伝子の組み合わせで決まっていること、DNAを構成する基本記号は4種類しかないこと(この4種類の記号で、文字、文章にあたる情報指令が作られる)、などが判明しています。

一つの卵細胞が、どうしてやがて、臓器、脳、骨、筋肉、皮膚、毛髪などの使命を異(こと)にした細胞に変貌、分裂するのかは今のところ分かっていません。細胞は、まるで『環境を読み』『タイミングをとらえて』いるかのように、目的の細胞へ変貌していきます。将来、何の細胞にも変身できる資質を備えた『ES細胞(万能細胞』の存在は分かっていますが、どのような『環境』と『タイミング』で、目的の細胞に変貌するのか、『環境』と『タイミング』の情報を細胞に与えている要因は何か、などは皆目分かっていません。『ES細胞』を利用すれば、人間を悩ませてきた難病も克服できるという話は、可能性を述べただけで、具体的な手掛かりの発見にはまだ程遠い状態にあります。しかし、ここまで追い詰めたわけですから、『突破』の可能性は確かにあります。

人間は、『神が神の形に似せて作ったもの』ではなく、生物の途方もない世代交代の繰り返しの中で、偶然突然変異で環境に適したものが出現して生き残るというプロセスをこれまた途方もない回数繰り返して、できあがってきたということになります。現在の環境を肯定すれば、人間の身体は、一見合理的にできていますが、地球温暖化で、平均気温が数度あがるだけで、多くの人間は、生き残れるかどうかの危機に直面します。体温が数度上がれば大変なことになるように、数度の気温変化も侮れません。勿論、突然変異で人間は今後も変貌していく可能性を秘めています。

人間の性別を決めるY染色体(男性だけにある)が、『どんどん痩せ細っている』ことが、明白になっていて、人類滅亡の予兆と言う人もいますが、これも、『誰かが悪い』わけでも『神が罰している』わけでもなく、進化のプロセスで偶然採用した『生殖方式』が、運悪くそうなるような『しくみ』にできているまでのことです。人間の身体が、全て合理的にできているわけではないことの証左です。人間が滅亡した後、数億年後に、また姿かたちや能力で、人間そっくりの生物が出現する保証は何もありません。

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