« 武士は食わねど高楊枝 | トップページ | 梅爺創作落語『カラスは白い』(2) »

2011年3月22日 (火)

梅爺創作落語『カラスは白い』(1)

毎度いっぱいのお運びさまで、まことにありがたく存じます。

世の中には、物事の道理や人情ををよく弁(わきま)えた大変立派な方がおられ、こういうお方が、偉くなって人の上に立たれるのは、結構なことでございますが、中には、道理を弁(わきま)えないばかりか、自分の勝手な考えを周りにおしつけるといった、困ったお方もおられまして、こういうお方が人の上に立つっていなことになりますと、大変厄介なことになりかねません。

(大家)『やぁ、八つぁん、どうもお忙しい所お呼び立てして済まないね』

(八五郎)『どういたしまして、ところでどんな用件でござんしょう』

(大家)『つかぬことを尋ねるが、お前さんカラスの色をご存知かな』

(八五郎)『御隠居さん、藪から棒に酔狂にもほどがありますよ。カラスの色なんざ、そのへんを転げまわっている餓鬼どもでも知っていまさーね。カラスの色は黒でござんしょう』

(大家)『やはり案じていた通り、お前さんは蒙昧(もうまい)の輩(やから)じゃな』

(八五郎)『へっ?、もうまいのやからとは、一体何のこってすかい』

(大家)『ものごとの本当の姿を観る眼を持たぬ人間のことだな』

(八五郎)『御隠居さん、いくらなんでもそれはありませんぜ。たしかにあっしは、学問が無い人間でございますが、眼は人並みに二つもっていますから、御隠居さんの薄い白髪(しらが)も、顔のしわも、しみも、ちゃんと見えておりますぜ。御隠居さんは、カラスは黒くねぇとおっしゃるんですか』

(大家)『カラスの色は白じゃな』

(八五郎)『えっ!カラスは白い・・・』

(大家)『確かに、多くの人はカラスは黒いと申しておるが、色々考えてみても、カラスが黒いという確たる証拠がないことにわしは気付いたのじゃ。そこで、わしは更につらつらと考えを深めた結果、カラスは白いという結論に達したという次第じゃ』

(八五郎)『てーことは、御隠居さんはついにカラスが白いという証拠を見つけたってわけですな』

(大家)『この際証拠などは屁のつっぱり、つまり役に立ちませんな。他人の言葉などに惑わされず、心を研ぎ澄まして観れば、本当の姿が見えてくるものじゃ』

(八五郎)『こいつは驚きましたな。御隠居さんがつらつら考え、心を砥石でとぐっていと、世の中は変わって観えてくるんでございますか』

(大家)『蒙昧の輩には、ちと説明は難しいが、ありていに申せば、そういうことになるな。わしは常々この長屋の皆が、少しでも蒙昧から目覚めて欲しいと願っておるのじゃ。そこで、八っつぁんに、ひと肌脱いでもらって、皆にカラスは白いと伝えて欲しいんじゃ。引きうけてもらるかな

(八五郎)『お役目の筋はわかりましたが、長屋の他の野郎が、言うことを聞かず、蒙昧にこだわったら、どうしましょう』

(大家)『その場合は、店賃(たなちん)を倍にして、それでも言うことを聞かない時には、長屋から出て行ってもらうことになるな』

|

« 武士は食わねど高楊枝 | トップページ | 梅爺創作落語『カラスは白い』(2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 武士は食わねど高楊枝 | トップページ | 梅爺創作落語『カラスは白い』(2) »