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2009年3月11日 (水)

ヴィスコンティの映画『揺れる大地』(1)

NHKBS第二放送で放映され、録画機に撮り貯めてあった、1948年のイタリア映画『揺れる大地』を観て、人間にとって『教養』はどういう意味を持つものなのであろうかと、考えさせられました。この映画の監督は、イタリアの鬼才ルキア・ヴィスコンティで、数夜連続の特集で、彼の映画が放映されました。イタリアの黒澤明とも言える人物です。

とは言っても、この映画は、『教養』とは何かを主題にしたものではなく、人間社会に存在する『搾取』の不条理を描いたものです。映画の始めに、監督のヴィスコンティは、『この物語は、搾取が存在する所には、どこにも存在する話である。標準語のイタリア語では、この内容は表現できない』とメッセージを挿入しているとおり、シチリアの貧しい漁村を舞台に、俳優も土地の人達を使って、言葉を含め徹底した『現地ロケ』に徹しています。日本人の梅爺は、シチリアの方言が醸し出す、ニュアンスを理解できないのは残念なことでした(字幕映画)。

南イタリアのシチリアと言えば、明るい陽の光に満ちたところを想像しますが、60年前の映画は、当然モノクロで、主題を表現するためにか、むしろ暗いタッチに終始しています。

この漁村では、魚の仲買人を兼ねる船主が、貧しい漁師を雇い、小船で徹夜の漁から帰った漁師の獲物を、安値で買い叩くという徹底した搾取を代々行われてきました。命がけの重労働を強いられる漁師は、皆極貧で、仲買人だけが裕福になるという不条理なしきたりが続いていたということです。

年老いた漁師は、『今までそれでうまくいってきたのだから』と、現状を肯定しようとしますが、若い血気盛んな漁師トーニは、自分の力で、現状を打破しようとします。トーニは、家財を抵当に入れて銀行から借金をし、自分の船を所有して、仲買人の搾取を逃れる計画を決行します。

トーニの最初の漁は、幸運に恵まれ、いわしの大漁に遭遇して30樽もの塩漬けをつくり、将来の販売を夢見て備蓄することに成功します。しかし、更に、大漁を見込んで、普段より沖合いに出たトーニは、嵐に遭遇し、命からがら帰還しますが、船は大破し、唯一の財産を失ってしまいます。

家財、船を失い落ちぶれたトーニに対しては、仲買人は勿論のこと、他の村民冷たい態度をとります。頼りの『いわしの塩漬け』も二束三文で、買い叩かれてしまいます。ひもじさに耐えかねたトーニは、プライドも全て捨てて、仲買人に頭を下げ、以前より貧しい漁師に逆戻りするところで映画は終わります。

監督のヴィスコンティは、『トーニの挫折』を淡々と描くことで、人間社会に何時の時代も存在する『不条理』という難問を観る人に訴えています。安易な『勧善懲悪』の物語にしなかったことに、大きな意味がありそうだと梅爺は感じました。

『正義は最後に勝つ』と私達は教えられてきました。たしかに、歴史を永い目で見れば『不条理』は少しづつ是正されてきたと言えますが、人間社会が、異なった価値観をもつ人たちで構成される以上、『不条理が根絶される世の中』は永遠に到来しないのではないかと、少々悲観的になりました。

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