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2008年6月 8日 (日)

面白さ満載の本(3)

フロイトの学説は、『エディプス・コンプレックスに基づく無意識の性衝動が誰にもあり、それが夢に現れる』というものですので、初めてこれを聴いた人は、驚愕し、戸惑ったにちがいありません。特に、宗教家や、自分は『清く正しい』と信じ込んでいる人たちは、受け容れがたい妄説として反撥しました。この小説の中でも、当時のアメリカ医学の大家達が、フロイトの講演や英語訳の学説論文出版を、社会を害するものとして阻止しようと、暗躍する様子が描かれています。

『無意識の願望』や『何となく気がかりなこと』が、夢に現れるという主張は、そうであろうと梅爺も思いますが、何でもかんでも『エディプス・コンプレックスに基づく性的願望』として説明しようとするのは無理があるように感じます。脳の活動の一部は、自分の理性ではコントロールできず、我ながら不可解なこともあると、単純に認めてしまえば、それで済むことですが、なかなかそうはいかず、自分の中に、そのようなおどろおどろしたものがあることを『罪』と意識し、悩んだり、抑圧しようとしたりして、反って鬱状態になるようなこともあるのでしょう。人間は、自分自身が不可解であることを認めたがらないために、悩みを抱えるのですから本当に厄介です。

ユングは、最初フロイトの一番弟子でしたが、やがて二人は、考え方の違いが元で、袂を分かつことになります。この小説の中でも、ユングがフロイトに反抗する場面が登場します。心理学は、物理や化学のように、普遍的な法則が存在しない学問ですから、学者間の『仮説』の対立は避けられないのでしょう。

心理学は、脳の働きを外側から、現象的にとらえる学問で、ヒトを解明する手がかりの一つではありますが、『何故ヒトは、そのようにできているのか』という真因を突き止めることは、難しいように感じます。ヒトの脳を、『生きている状態でリアルタイムに』解明する、決定的な探索手段が見つかれば、従来心理学が現象的にとらえていた事象の真因が分かってくるかもしれません。

しかし、仮に真因が明るみに出た時に、その事実を個人や社会がどう受け止めるかは、想像を絶する難題のように思います。核兵器の発明どころではない、大きな問題に人類は直面するかもしれません。自分の中に、おどろおどろした不可解なものがあることを認めた上で、思い悩み、苦しんでいる方が、『人間は幸せ』なのかもしれません。悩みや苦しみの原因が明らかになり、それから解放される手段を手に入れた時に、人間は人間らしさを失うかもしれないというパラドックスのような話です。

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