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2008年5月30日 (金)

鉄と神話(2)

古代においては、鉄の利用技術を持っている民族が、日常の生活ばかりでなく、戦闘における武器、防具で、青銅の利用技術しか持たない他の民族を圧倒できたに違いありません。日本においても、各地の豪族が、独立した小国家を形成していた時代から、大和朝廷による統一国家へ移行する過程で、鉄の利用技術の支配が、大きな役割を演じたのではないかと推測できます。

現代社会では、鉄はあらゆる産業の基盤となる素材であり、工業化社会では『鉄は国家なり』とまで言われました。

しかし、鉄鉱石を高温で熱して、素材となる鉄を溶かして取り出す、という基本的な方法は、古代も現代も変わっていません。今回見学をした、新日鐵名古屋工場の4500立方メートル以上もの内容積をもつ巨大な高炉も、基本はこの方法により、鉄鉱石から銑鉄を連続的に作り出す方式のプラントですが、その規模と高度な制御技術(コンピュータ制御)は、古代とは全く比べものになりません。工場に隣接した岸壁に横付けされた巨大な輸送船から、輸入した鉄鉱石やコークスが、ほぼ無人操作で、積み下ろされ、連続的に高炉へ投入されていく様は圧巻でした。高炉から取り出された銑鉄は、転炉や真空脱ガス処理で、極低炭素の鋼に変わり、連続鋳造で鋼片(スラブ)にされた後、熱間圧延(今回はこの行程も見学)、酸洗、を経て熱延鋼板という製品になります。その後、需要に応じて、熱延鋼板は、冷間圧延、連続焼鈍を経て冷延鋼板に変わるか、冷間圧延、溶融亜鉛めっきを経て溶融亜鉛めっき鋼板に変わり、顧客へ出荷されます。

これらのプロセスが、巨大な工場の中で、整然と行われていくのを見るだけでも驚きますが、更に最終製品の仕様や品質を、顧客の要望に合わせて、細かくコントロールしているという話を聞くに及んで、一体この工場の中に、どれだけ多くの製造に関するノウハウが蓄積されているのだろうかと、考えててしまいました。

原材料を自国生産できる発展途上国が、製鉄工場を作ったら、日本は脅かされるなどという人もおられますが、今や、世界のどこでも『日本の生産技術』なしには、鉄は生産できないにちがいないと、梅爺は感じました。日本の鉄鋼業界と顧客業界(自動車や家電業など)は、厳しい条件を相互の努力によって乗り越えることで、世界最先端の工業製品レベルを実現し、維持しているのだということを再認識しました。

日本の製鐵技術、それを支える周辺技術、環境対策技術は、圧倒的に高いことを肌で感じて、梅爺は大いに安心し、誇らしく感じました。日本に自信が持てないという方は、一度製鐵会社の現場を見学されることをお奨めします。

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コメント

大和岩雄氏のころとは違って、出雲の考古学もだいぶ進んできて、関裕二氏なんかは、大和の勃興は出雲の鉄によるなどと言ってますよね。たしかに島根県安来市などに古墳時代を先取りした四隅突出墳丘墓などを作った集団は大和が鉄欠乏症だった時代にふんだんな、鉄器を埋葬していますからね。

投稿: 鋼太郎 | 2009年9月 5日 (土) 21時01分

鋼太郎さま、コメントありがとうございます。
関裕二氏の、出雲に関する本も読みましたので、そのうちにブログに感想を書こうと思っています。

投稿: 梅爺 | 2009年9月 6日 (日) 00時03分

 それにしても日立金属製の高性能冷間工具鋼SLD-MAGIC(S-MAGIC)の自己潤滑性の評価が高い。塑性加工金型のカジリを防ぐメカニズムが最近わかったようで、摩擦面に吸着している微量なオイルを自動的にナノベアリング状の結晶へ変換されるとのこと。耐カジリ性(耐焼付き性)の指標であるPV値も通常の鉄鋼材料の6倍と世界最高水準と報告されている。
 これはどういうことかというと、例えば自動車のエンジンや動力伝達系部品のしゅう動面積を1/6にすることを意味し、大幅な軽量化による低燃費化が期待できることを意味している。トライボロジー技術にはまだまだ発展する物理・力学的な未知が多いように思われる。

投稿: 国際ダウンサイジング委員会 | 2014年8月14日 (木) 18時00分

国際ダウンサイジング委員会さま コメントありがとうございます。

鋼の組成によって、鋼自身に、潤滑機能があるということですね。初めて知りました。

投稿: 梅爺 | 2014年8月14日 (木) 23時39分

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